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[夢の卵]_06_「いつもより優しい人」

02 15 *2016 | Category オリジナル::夢の卵

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文庫後。誕生日は。

続き





 甘くひっそりとした夕闇の中、しなやかな風が、薄着になった身体に忍び込んでくる。空気にはかすかに甘酸っぱい花の香が混じっている。沈丁花。一拍おいてその花の名前を思い浮かべる。春先にしきりと出逢うこの香の正体を、詩草は太夏志に教えられるまで知らなかった。雑学博士で、なおかつ季節を象る事柄に敏い太夏志は、美しいと思うものや風物について、ためらいなく口に出した。男が花の話などすることを、ひ弱だったり、気障に思ったりして嫌う人もいるが、太夏志はそんなことには頓着しなかった。
 詩草も元々、名前を知らなくとも、春の訪れを象徴するその香を、嫌いではなかった。その香をかぐと、冬に凝り固まった体内の細胞を、やわらかい息でほぐされる感覚があった。太夏志に教えられたことで、彼は以前よりもその香を好きになった。


 詩草が初めて海で泳いだのは中学生の時。従兄弟や蓉子伯母と、房総に出かけた時だ。浜辺はあぶられるように暑いのに、深いところまで行くと、足がかじかむほど海水は冷たかった。身体が冷えるまで水中にいて、海岸に戻って行ったとき、浅瀬にさしかかると、水は淡いあさみどり色に変わり、あちこちに逃げ惑う足下の砂と一緒に、詩草の足を柔らかく包み込んだ。海の中で、冷たい場所から温かい場所に移動できることを詩草は不思議に思った。まるで自らの足で、冬から春に向かって歩いてゆけるようだった。
 こうして思い出すと、少年時代の夏の最中にあっても、詩草は春の賛美者だったようだ。その夏の海岸で、普段は着物を着ることが多い蓉子伯母が、わすれなぐさ色の小花が散ったサンドレスの裾を風にはためかせていたのが、はっきりと思い出せる。三十代だった伯母は、ほっそりと白く痩せており、日焼けしないよう、大きな白い日傘をさしていた。夏の空気の中で手を振る彼女は光に透けるようで、世界を彩る夏の原色に囲まれて、やはり春のようなやわらかさを身にまとっていた。
 一人で帰宅した詩草は、マンションのエントランス近くで、今日外出して終わらせようと思っていた、幾つかの事をメモした紙を取り出した。コピー用紙を折りたたんで書き付けたリストを、エントランスを照らす、黄色い照明の中で確かめた。抜けているものはなかった。
 今日は忙しい一日ではなかった。余り予定が入らないよう、太夏志が考慮してくれているのを彼は知っていた。
 用事の一つは、中央図書館にリクエストしていた、シドニィ・シェルダンの「氷の淑女」(去年の秋に予約カードを書き込んで、ようやく順番が回ってきたものだ)と、渡辺淳一の「失楽園」を取りに行くこと。太夏志は、少数派的な文学にも、エンターテインメントにも喜んで高額を投じるが、時々、これは図書館で順番待ちをして読むのでいい、と思う本があるようだった。たぶんそういった本は、良い意味でも悪い意味でも、太夏志の関心を強く引いたものなのだろう、と詩草は思っていた。性格に、目立って欠点らしい欠点のない太夏志が、自分を超える才能の、或いは強運の持ち主である、一部の作家に対して、微妙な屈託を垣間見せる。それを詩草は、むしろ好ましい人間らしさと捉えていた。
 次の項目は、夏に出る本の出版記念パーティの招待状を送ることだ。太夏志の私的な関係者宛に、三日かけて、百五十通の封筒を作って投函した。
 次は、資料のために大量に撮影した、大異山高徳院清浄泉寺の写真のネガを、写真店に預けること。その資料をもとに太夏志が書くのは、浄土宗の存在する国の話ではなく、剣と魔法と竜とが共存する世界観の、シリーズもののファンタジーだった。そのファンタジーは、今のところ、詩草が登場人物の大半の名前を覚えられない、唯一の黒沢太夏志の長編だった。
 太夏志の本に、構想の過程から関わっていることが多いため、詩草はそこに登場する人物を、慎重に注意を払って見守っている。過去に詩草自身が関わった実際の人間達よりも、詩草は黒沢太夏志作品の主人公達と、より親しいと云えるかもしれない。しかし、架空の魔法世界で繰り広げられる、光と闇の対立について、自分が余り強い関心を持てず、感情移入することも難しいのだと、詩草はそのシリーズによって知った。 
 そして夕方は、光が丘の黒沢家に、太夏志の従兄弟・優花子の大学入学祝いを渡しに行った。その祝いの品は、太夏志の仕事が詰まったせいで遅れに遅れ、今日出来上がったばかりのもので、太夏志は四月の頭、ロンドンに短期取材旅行に行くにあたって、優花子に会って渡してくれるよう、詩草に頼み込んだ。
(「どうして自分で渡さないんですか? 一週間くらい遅れても、その方が優花ちゃんもずっと嬉しいですよ」)
 詩草が純粋な疑問として口に出すと、太夏志は微妙に視線を逸らし、
(「俺がやると、優花も意識して喜ばないわけにいかないだろう」)
 彼らしくないことを呟いた。
 詩草は太夏志が照れているのに気づいた。太夏志は極めて雄弁な男で、知り合った当初から、詩草に対しては照れの片鱗も見せたことがないが、両親と優花子を相手にする時だけ、妙に素直でないところがあった。軽妙洒脱で誰を相手にしてもあがることなどない、作家黒沢太夏志も、家族の前では子供に戻ってしまうのだろう。
 太夏志から優花子へ贈られたのは、作家デビュー作である純文学「シンシア」と対を成した物語だった。優花子はデビュー作を太夏志の作品の中で一番好んでおり、思い出したように口に出して褒めた。
 詩草は、出版社を通さずに書籍になる今回の小説を、編集者の代わりに校正するために読んだが、それは最近の太夏志が書かなかった繊細な文学作品だった。
「シンシア」は一九八〇年代のアメリカが舞台の作品だが、新しい作品は、一九九〇年代の日本が舞台だった。シンシアと名乗る日本人の少女がアメリカで若くして産んだ、ヒスパニックとの混血の少年が、主人公だった。
 原稿用紙で百枚ほどの、その短編を、太夏志は出版社に渡す原稿の合間に、手書きで書いていた。普段驚くほどの速筆を誇る太夏志だが、「それ」には二ヶ月近くかけた。仕上がった原稿を、詩草がワードプロセッサで清書し、フロッピーのデータを印刷会社に渡して、高価な上製本に仕上げてくれるよう依頼した。本当は、優花子と詩草の分で二冊あればいいのだ、と太夏志は云ったが、そんなに少ない単位での依頼は出来ず、結局五十冊作ることになった。
 新しいインクと紙の匂いがする本を一冊取り出し、詩草は今日中に渡すつもりで、用意していた桜色の紙で丁寧に紙で包んだ。太夏志と懇意にしている装丁家に頼んだその本は、鮮やかな紅葉を敷き詰めた写真が、手漉きの和紙にシルク印刷で刷り込まれていた。その上から、表紙の絵を透かす固い紙でカバーがかけられ、タイトルと、物語の中の季節を象徴する、一房の葡萄が、紅い箔で押されて、きらきらと光っていた。そのデザインは、太夏志が学生時代に読んで、強く影響を受けた、岩波文庫の「怒りの葡萄」のオマージュでもあった。
 ただ、ただ、優花子のためにえがかれたその物語は、思春期の人間という、孤独な生きものへの静かで力強い応援歌だった。明らかなハッピーエンドでこそなかったが、繊細な絹紐のようにより合わされた登場人物たちは、おぼつかなくはあっても、やがて光に向かっていけるだろう、ということが暗示されていた。
 性格の際だった登場人物が大勢登場して、過剰なほど雄弁な台詞を応酬し、恋あり冒険有り、殺人者あり、どんでん返しあり、危機あり、そして危機は去り、平和が来て、誰もが笑顔で未来へ向かってゆく。普段はそういった傾向の話を多く書く太夏志が、従姉妹のために苦心して純文学を創るということが、どれだけ思い入れのあることなのか、詩草はよく解っている。きっとこれを受け取る優花子も理解するだろう。
 詩草の許容出来る範囲で、ありとあらゆるものを太夏志から贈られてきたが、著書を一冊捧げられたことはまだない。太夏志は、創作するときに、それが金銭と交換されるものだということを、明確に意識して書いている。自分自身の想いや志向を表現するために書くのではないのだ。そして、太夏志の創作的な力を提供するよう求める相手に、ほぼ百%応じるつもりで書く以上、一つ一つの作品を、ゆっくりと固めて研磨するという作業を割愛せざるを得ない。その代わり、一定のグレードを決して落とさないのが太夏志の強みだった。
 著書を恋人に献呈しない理由について、太夏志は最近、「クリエイターとしての自分は、まだそのステージに至っていない」と口にした。詩草は、それに対して何も応えなかった。期待していない、と云えば突き放すことになり、待っていると云えばプレッシャーになるだろう。
 自分は待っているだろうか? 詩草は自問したことがある。彼は余り、将来への希望というものを持たずに生きてきた。こうなればよい、こうあって欲しい、と思うのは、社会のシステムや、ごく身近な人達の来し方行く末に限られており、そこに自分は含まれていなかった。
 ただ、太夏志が「まだ」と云い、「いずれ」があるとするならば、詩草はその時、当惑することはもうないだろう。太夏志が彼に惜しみなく与える他のものと同じように、感謝と親しみをもってその作品に接するだろう。そう思っていた。


 四月三日を中程にはさんで、詩草の同行しない旅行に出かけることを、太夏志は気にしていたようだが、詩草はそれについて特別な感情は持たなかった。その木曜日が詩草の誕生日なので、太夏志が特別に扱おうとしてくれているのは分かっていた。
(「じゃあ、その日に電話か葉書を下さい」)
 やたら日付にこだわる太夏志に、あまりしないことだが、詩草は先手を打ってそう云った。
(「リアルタイムにお互いのことを考えてるなら、一緒にいるのと同じでしょう」)
(「お前は、多方面で物わかりが良すぎるよ」)
 太夏志は複雑そうな表情を見せたが、しかしスケジュールは前後に動かず、そのままの予定でロンドンに出発することになった。太夏志がそんな葛藤をするというのは、詩草には、やや過分に感じることだった。
 彼は、十一歳の六月まで母と暮らしていたが、精神病に激しく苦しんでいた母は、息子の誕生日を祝うことはなかった。子供の詩草でも、書類に書き込む機会はあったので、自分の誕生日は勿論知っていた。母も認識はしていたと思う。だが、二人の間でそれが話題に上ることはなかった。母と暮らした最後の年は、群馬に住む蓉子伯母が、下馬まで、詩草の誕生日を祝いに来てくれた。一面に薄紫色の花や木の実の意匠が配された、クリーム色の絹の訪問着を着た伯母は、普段着でいた詩草が、子供ながらに気圧されるほど華やかで、古い家が肩を寄せ合う下町には場違いに見えるほどだった。理由は覚えていないが、母はその数日留守にしていた。
(「ご飯食べに行きましょう。何でも欲しいもの買ってあげる」)
 そう云って伯母に連れ出された時、やわらかな手でそっと片手を握られて、詩草はいたたまれずにうつむいた。嫌ではなかったが、恥ずかしかった。それに、伯母と手をつないでいるところを母に見られるのではないかと、歩いている間中、そればかりが気になっていた。
 詩草の誕生日の原体験は、おそらくその誕生日なのではないだろうか。学生時代は友人や恋人が、黒沢太夏志と知り合ってからは彼が、その日を祝ってくれた。どれも淡い思い出として残っているが、それによって誕生日への執着が芽生えることはなかった。
 マンションに入ってエレベータを下りた詩草は、半コートのポケットに入れた鍵を探った。この建物の玄関の扉は、全て二重鍵が設置されている。二つの鍵をつけたキーホルダーをそっと握る。ポケットの中で詩草の体温がうつった鍵はあたたかい。元々は、太夏志の一人暮らしだったこの部屋の、鍵を渡されてから三年近くになる。最近ではこの鍵を、自分の鍵として認識するようになっていた。大学生だった詩草が、太夏志の仕事を手伝うようになり、卒業し、同じ場所に起き伏しするようになった。家族にも紹介された。大きなトラブルを乗り切るために力を尽くして貰った。子供の頃の未来予想図には有り得なかった二十五歳の自分が、ここにこうしている。
 そして、太夏志に頼まれたことを今日行ったことは、忘れられない場面の登場人物として、詩草を列席させることになった。
 彼は、太夏志が彼女のために書いた物語を、黒沢家の居間で手渡されたときの、優花子の表情を思い出した。胸の中に、温かく小さな火が灯った。
 色白の優花子の頬に、あっという間に薔薇色の血が燃え上がった。目を瞠って何も云えず、受け取った本を両手で持った優花子を、彼はひどくいとおしく思った。同席していた太夏志の両親(彼らは優花子の育ての親でもある)も、詩草と同じように感じているのが伝わってきた。優花子が、睫毛を幾度か激しくしばたたかせたので、彼女が泣くのかと思った。だが、優花子の目は潤んでいなかった。大きな目をなごませて、詩草に向かって、見えない形で参席している太夏志に向かって、光を放つような美しい微笑みを見せた。光沢のある髪がたわんで、彼女の頬や首筋にゆるいカールを作り、若さというエネルギーを固めて作られたような、優花子の貌をおさめる生きたフレームになっていた。
 その後も、優花子は途切れ途切れにしか喋らなかったが、そこにいる者は誰もそのことでからかったりはしなかった。優花子がその本を読みたいのは分かっていたので、長居しないよう、詩草は早めに辞去した。
 互いを愛しむ家族の団欒という、神聖な儀式の中に自分が属している。詩草は、太夏志が自分をメッセンジャーに任じたことに、強い感謝の念を抱いた。

 四月の夜気に、知らず知らず身体が冷えていたようだった。鍵を開けて部屋に入ると、中は暖房を入れていなくても暖かく、詩草は一日の緊張から解きはなたれて、短く息を吐いた。するべきことをした後ならではの平穏な気持ちで、ドアに内側から鍵をかける。
 その時リビングで電話が鳴った。彼は急いでもう一つの鍵を回し、靴を脱いで部屋に入った。太夏志からの電話ではないだろうか、と思う。時刻は午後七時。イギリスはもうサマータイムに入っているから、今は午前十一時頃だろう。電話をかけるのに丁度いい時間なのではないだろうか。
 受話器を耳に押し当てると、予想通り、耳に心地良い太夏志の低音が聞こえてきた。
『初めまして。二十五歳の上野詩草さん?』
 その云い方が、宇宙船と交信するNASAのスタッフのようで、詩草はそこからユーモラスな印象を受け取った。
「こちら東京、上野。感度良好」
 そう応えると、約九千キロ離れた場所にいる太夏志は、電話の向こうで低く笑った。その声の後で、女性の話し声がして、詩草は耳を澄ませた。聞き覚えのある声だし、日本語だった。おそらく今回の取材に同行した、G社の編集者である柳河だろう、と詩草は思った。太夏志と十年近い近い付き合いのある、個人的にも親しいベテランの編集者だ。だが、いつも落ち着いて知的な、低い声で話す柳河にしては、妙に間延びした甲高い声だった。
『祝福すべきこの瞬間に立ち会って、俺は』
 そう太夏志が云いかけた時、やはり明らかに柳河の声が、かわってくださいよう、と割り込んできた。その声は明らかに酩酊した声だった。
『こらこら、私的時間なんですから』
 たしなめるような太夏志の声に続いて、酔った柳河の声が遠く、近く、揺れて聞こえてきた。なにがしてきじかんですかあ、どうせうえのさんとしゃべってるんでしょお。したたかにアルコールに干渉されたその声は、水中でゆらめいているようにふるえていた。上野に大事な用事があるんです。やはり不安定な音量で、太夏志の声がきこえたかと思うと、びっくり箱の蓋を開けたように、受話器から柳河の声が飛び込んできた。
『上野さん?』
 うえのさあん、と引き延ばされた彼女の声は、エキセントリックなエフェクトがかかったような歪みを帯びている。
 詩草は、マイクロ波でスペースシャトルと交信する宇宙センターから心を切り離し、N区の十四畳のリビングルームに舞い戻った。
「上野です」
 そう云って、酔っぱらいに対する対応を一瞬悩ましく感じたが、もう一言、お世話になっております、と付け加えた。ちょっとせんせえ、ほんとにうえのさんにでんわしてますよう、と柳河がけたけたと声を出して笑った。そうです。俺には上野しかいませんからね。太夏志がそう答えているのが聞こえた。柳河は太夏志と詩草の関係を知らない。周囲に何人か話してはいるものの、なるべく編集者には話さないことにしている。一瞬ひやっとしたが、しかし、これだけ意識が混濁状態にある人には、微妙なニュアンスは伝わるまい。そう思って、詩草は気持ちをおさめた。
 その後も、幾つか意味をなさないやりとりがあったのち(むしろ、この状態の相手と会話を成立させようとすることこそが、宇宙との交信に近いものだったかもしれない)、太夏志はようやく柳河から逃れることに成功したようだった。
『つながってるか? 国際電話頼み直すのも何だから切らなかった、ごめん』
 半分面白がっているような声で太夏志はささやいた。声がさっきよりも反響して聞こえる。
「どこから電話してるんですか?」
『ホテルの俺の部屋。明け方から雨で撮影できなくて、柳河さんと飲んでたわけ。そしたら持参のワイン一本飲んで、昼間からすごく酔っちゃってさ。家庭にいろいろつらいことがあるみたい。寝たかと思って電話したんだけど失敗したな……今はバスルームに線ひっぱってきた』
「それは、お疲れ様でした」
 事務的な電話モードのままで詩草は答えた。
「さっき、何か云いかけてませんでした?」
 そう聞くと、太夏志はすぐに、中途で混雑した会話の記憶の中から、言葉の切り口を見つけ出したようだった。
『ああ、まず、今日という日を迎えて、俺は詩草の誕生に携わったお母さんに感謝したい』
 彼は、テレビやラジオでも歓迎される、滑舌のいいよく響く声で、しかしあくまで優しいニュアンスを含ませて、そう云った。太夏志に、そんな風に母のことを云われたのは初めてで、詩草は一瞬応える言葉が見つからなかった。しかし、こういう時は無理に答えなくとも、太夏志は彼の沈黙の中に含まれた感情の動きを、ほとんど逃さずに拾い上げるのが常だった。
『お前を口説いた一九九五年の、自分の勇気にも感謝する。世の中に暗くて、つらい出来事が多くても、いつも明るい面を照らし出してくれる詩草に、誰よりも感謝する』
 詩草はため息をついた。これは太夏志に聞かせてもいい、長期的な苦痛の寛解を意味する吐息だった。
「ありがとうございます。僕には、その……、語彙がないので。太夏志さんが云ってくれることを、全部お返しします」
 自分の心の中に作り出された、静謐な凪を壊さないよう、詩草は慎重に言葉を送り出した。太夏志だけがもたらすあたたかな平穏が、物理的な感触を感じるほど、やわらかに、春の服装をした詩草に寄り添ってきた。
「じゃあ、お前の手を俺の手だと思って、頬に触って」
 そう云われて、詩草は余計な詮索をせず、先刻の入り乱れた会話の最中に脱いだコートを持っていた手をそろそろと上げ、右側の頬にあてた。外気に冷えたままのてのひらと頬が触れ合う。
「触りました」
「冷たいな」
 太夏志がするりとそう云って、詩草は心を読まれたように驚いた。
「出かけたばかりですから」
 詩草は、無二の贈り物に顔を輝かせた優花子を思いだし、太夏志にそれを伝えようと口を開いた。その時、浴室の反響と混じり合った、おだやかな声が詩草の耳に届いた。
「キスしたい。頬にも、それ以外のところも」
 詩草は呼吸を殺して、目を閉じてみた。
 自分の頬に触れた冷たい手を、太夏志のものだと想像する。
 その瞬間、マッチを擦ったように、右頬のてのひらから優しい熱と痺れが広がった。太夏志はここにはいないが、詩草の五感にくっきりと刻み込まれている。彼の声や唇の優しさを思い出すのに、まるで努力など必要なかった。目を閉じたまま、高価なイギリスとの国際通話が引き合わせる、太夏志のてのひらの感触、受話器の向こうに聞こえるかすかな息づかいを感じた。
「それも、お返しします」
 優しくなかったことなどない人が、更に与えようとする。それが特別な日に由来するものなら、自分もその日を特別だと思える。
「誕生日おめでとう」
 薔薇色に輝いていた優花子や、円光のように彼女を取り囲んでいた空間。子供にとって高価すぎる贈り物のようだった、昔の伯母の姿。浅い春を彩る花の香。入院する前は長く伸ばしていた母の洗い髪が、入浴後にゆっくり乾いていく様子。
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 思い出の欠片が詩草の中に次々と浮かび、やがてそれは、閉じた視界の中で間近に立つ、背の高い男の姿に集約された。

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